13 野村美月/"文学少女"と繋がれた愚者

“文学少女”と繋がれた愚者 (ファミ通文庫)

“文学少女”と繋がれた愚者 (ファミ通文庫)

ヤンデレ更科さんのお話。更科さんはすごく愛しい病み方をしてるなーと思う。飢え渇く幽霊のときに、お互いがお互いをおもっていなければいやだ、という話をしたけど、更科さんはちょっと違うんだよね。
芥川くんのことが好きで、好きな人に自分のしたことではないことで自分を悪くおもわれたことが辛すぎてっていう発端と、最終的に更科さんが望んでいたことが、自分の気持ちを否定してもらうこと、っていうのがいいな、と思っています。好きだから、好きゆえに自分に気持ちのない人間を罪悪感で縛りつけて不幸にしたくないんだよね。でも、芥川くんのことが好きだし、でも過去のことを上手く消化できず許せないし、罪悪感ゆえに自分に優しい芥川くんにどうしても期待せずにいられない。だって好きだから。でも芥川くんは期待には答えない、更科さんのことが好きなわけではないから、でも罪悪感があるから拒むこともできない。そんな悪循環から解放されたいってずっと更科さんは願ってた。それってすごい愛情だなと思うんです。
結局愛情っておもいやりがなければ成立しないと思っていて、そのおもいやりが暴走して成り立つのって、愛情が通じ合ってるときだけだと思うんですよね。だから更科さんと芥川くんの間でおもいやりが暴走してしまったら何も成り立たない。芥川くんから更科さんに向けられるのはおもいやりではなくて罪悪感からくる償いとしての優しさだから、そこに更科さんへの愛情って何一つないんだよね。でも好きな人に優しくしてもらってうれしくないひとや期待しないひとなんていないわけで。そこら辺が歪んでしまって更科さんが捻じれていく感じとかが非常に好みでした。更科さんが最後に微笑んで穏やかな気持ちで芥川くんのことを吹っ切れたのもとてもいいラストだったな。
芥川くんは次の恋と、友情の間で揺れる日々が始まるわけだけど、それに立ち向かう強さというか、覚悟を手に入れたから、そうなることもできたんだろうなーとおもうと、モノローグとして機能していた手紙のあて先がふたつあったっていうのは上手い展開だなーと改めておもいました。