28 島本理生/大きな熊が来る前に、おやすみ。

大きな熊が来る前に、おやすみ。

大きな熊が来る前に、おやすみ。

島本さんの小説はいつも、わたしの心の一番奥深くをゆさぶる。野性時代で特集を組まれたときのインタビューだったと思うんだけど、確かDVについて書いている、と、そういう知識だけを持って読んだ。短編集ってことも知らなかったから、表題作のラスト辺りで、「それでもこの人はまた暴力をふるってしまうのだろうか、」と一拍考えたなぁ。ほんとうのこと、と言うのは当人同士にしかわからないことで、大なり小なり暴力と言うのは、割と多くの人が抱えている問題なんじゃないのかと思う。それをどう受け止めるかとか、どういう意図があったのかとかは、やっぱり当人にしかわからないのよね。彼らの未来が幸福であればいいなぁ、という予感じみた希望を持ったのだけど、あとがきを読む限り、それが間違ってないみたい。そういうのをちゃんと伝えてくれる島本さんの文章力はやっぱり凄い。
『クロコダイルの午睡』と『猫と君のとなり』の男の子2人は、根っこのところがほんとうに似ていると思う。少年みたいな大人というか、素直で、自分の持っているものや考えをありのまま受け止めて言葉にする。それはそれで、正しいことだという説得力がある。2人とも、なんだかかわいい。特に、『クロコダイル〜』のラストは、とても哀しい。涙を流すようなものじゃなくて、ゆるい哀しみが、ひたひたと、膜のように薄く、心に張り付いてなかなか消え去ってくれない、そういう、どうにも出来ない感じのもの。*1あぁ、ばななさんの『哀しい予感』を読んだときの読後感と似通ってるのかもしれないなぁ。
やっぱり島本さんはすごいなぁと思う。ひとりひとりの心情描写や台詞に、すごい説得力とリアルさがある。あと、ご飯が美味しそうだというのも、わたしにとってはものすごくポイント高い。冷やしうどん、おいしそうだったなぁ…。今回も満足感たっぷりでした。だがしかし、島本さんは自分が納得できるものを書き上げるまで、テーマをひっぱるよね。『生まれる森』→『ナラタージュ』の流れを、この作品と『あなたの呼吸が止まるまで』も組んでいるのでは…という予感。『あなたの〜』はまだ読んでないんだよー。早く読みたいな。

*1:わたしにしか伝わらない気がする…文章力が欲しいねぇ。