2 角田光代/エコノミカル・パレス

エコノミカル・パレス

エコノミカル・パレス

角田さんの小説は、引っ張られるものが時折あって、これはそれでした。引きずり込まれそうで、足元が危うくなっていくような。今すぐ逃げ出したくなるけれど、わたしには逃げる場所なんてないし、どれだけ距離を稼いでも、物質的な距離に意味などないことを思い知らされるだろうって言う、確信みたいな予感。なんていうか、わたしのなかのどうしようもない人間像そのまんまの人たちなの。
わたしには、彼女が自分の生活にほとほと嫌気がさしているのがわかる。けれど、周りの人間はそんな彼女の思惑に気づかない。踏み出す勇気も出ないから、悪循環を繰り返すばかりで。もしかしたら、誰かからしたら簡単に鼻で笑えるくらい、どうしようもないのかもしれない。けれど、彼女にとってはそんなに簡単なことじゃない。それは、現実的な不安となって、私を物語の中に引きずり込む。ページをめくる手は、物語をちゃんと追えているかなどさして気にもせず結末に向かう。流れるストーリーは予期していたもので、彼女は結局、根本的に変わらないまま物語は終わる。その中に流れる、どうしようもない無気力感みたいなものに、わたしはどんどん引きずり込まれる。どうにかなるという楽観が、わたしを苦しめる。読んでいてこんなにしんどくなる作品を書くのは、わたしにとって、まだ角田さんだけだ。特に、彼女や彼らが、東南アジアを放浪していたりする小説は、わたしをどうしようもなく不安にさせる。けれど、わたしは読まずにいられない。なんだかもう、ほんとうに自分でも不思議。